のんびり煙草をふかそうと、天気のいい屋上へと足を進める。
誰もいないと思っていた場所に、意外な人物を見つけて思わず目を細めた。

「久保田くん」

「こんにちは、さん。今日も五十嵐先生の忘れ物を届けに?」

「あたり。そのお礼に、ちょっと校内を見学させて貰ってるの」

「その格好だと見学というよりも生徒にしか見えませんけどね」

「そう?」

くすくす笑っている彼女が着ているのは、うちの学校の女子の制服。
保険医の五十嵐先生の妹である彼女の趣味は、コスプレ。
決してその手の職業の人じゃない。
本人は至って普通のOLさん。

「シャツは使いまわしなんだけどね」

「あれ、そうなんですか?」

「うん。開襟シャツなんだけど、リボンで誤魔化してるの」

「へー…分かりませんね」

「分からないように着こなしているの」

「それはそれは、お見逸れいたしました」

わざと深々と頭を下げれば、鈴が転がるように可愛い笑い声が聞こえる。



あー…なんか、いいねぇ…こういうの
温かい陽射しに、涼しい秋風…
そして、隣に綺麗なおねえさん…いうことなし、だね



のん気にそんな事を考えていると、不意に彼女が咳き込みだした。

「風邪ですか?」

当たり前のように手を伸ばし、ブレザーの上から彼女の背中をさすりながら尋ねる。
落ち着くまでに少し時間がかかったが、咳が止まると顔をあげて困ったように説明をしてくれた。

「季節の変わり目って、空気が急に冷たくなるでしょう。そのせいで、ちょっと気管支が…ね」

「あぁ、なるほど…」

「だから風邪とかじゃなくて…持病、みたいなもの?」

「そりゃまた厄介ですね」

「そうね…特に夜寝る時は、この喉を取ってエヘン虫を洗い流せないかって思うぐらいよ」

真剣な眼差しでその様子を説明する姿に、今度は俺が笑い出す。

「はは、そりゃ凄い」

「出来れば凄いんだけど、実際は無理ね」

「ですね…んじゃ、せめてもの慰めってことで」

ちょうどポケットに入っていた飴を取り出して彼女の手に乗せる。

「確か喉にいいんでしたよね」

「あ…花梨飴」

「良かったらどーぞ」

「どうもありがとう、ちょうど甘い物が食べたかったの」

嬉しそうに包みを開けて、黄金色の丸い飴を指でつまんで唇に乗せる。
ポケットに入っていたせいで少し溶けていたのか、指先についた飴を舐めるために僅かに見えた舌に鼓動が高鳴る。
そんなちょっとした仕草にも、どこか目を奪われてしまう自分は…あぁ、末期かもしれない…と思う。

「美味しい」

「そりゃよかった」

少し大きい飴は、彼女の小さな口の中を行ったり来たり…頬のふくらみでどこにあるのかも分かるほどだ。

「3時過ぎだから…おやつ代わり、ですかね」

「そう言われればそうね。あ…それじゃあ久保田くんにも何かおやつあげようか」

そういって小さなポーチを探り出す彼女を見て、ある事を思いつく。

「んー…とはいっても、ここにはガムぐらいしかないんだけど」

「あ、大丈夫ですよ」

「ガムでいい?」

「いえいえ、ガムじゃなくて…」

「え…」

ガシャン…と彼女が寄りかかっていた柵に両手をついた音だけが、やけに耳に響く。
驚いて瞬きを繰り返す彼女の目を、まっすぐ見つめながらそっと唇を重ねる。
跳ね除けられることはないとわかってはいても、この目を逸らせば…終わってしまう、そんな感覚に捕らわれながら、オコサマのような重ねるだけのキスを続ける。

やがて息苦しくなったのか、彼女が目を閉じたことに気付いてから、ようやく唇を離した。

「…ゴチソーサマでした」

「………」

「…随分甘い飴ですね」

「……」

「それとも、これは飴じゃなくてさんの甘さ…かな」

「っ!!」

驚きで潤んだ瞳に、一気に赤く染まる頬。
あぁ…まいったな、やっぱり足りない。

片手は柵を掴んだまま、もう片方の手でメガネを外してさんの手に握らせる。

「メガネ、持っててくださいね」

「〜〜〜こ、壊しちゃうかもしれない…わよ」

「大丈夫…家に替えがあるから。でもその場合、さんに付き添って貰わないと帰れないので…ヨロシク」

彼女の顎に手を添えてると、今度はわかっているのか、それとも年上の余裕を見せたいのか…躊躇いながらも目を閉じた姿に、口元が緩む。



さっきみたいなキスじゃ、今度は終わらせませんよ。
俺としては、そのメガネが壊れるぐらい夢中になって貰いたいですから。
だってそうすれば、メガネの代わりにアナタを持ち帰れるデショ。



「さて、覚悟はいいですか…」

そっと耳元に囁いてから、目の前にある甘い甘いデザートをより深く味わうべく唇を重ねた。





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………な、なんでこんなエロい空気になってしまったんだろう。
声!?声が悪いの!?
えぇそうね!きっと久保ちゃんの声の人がそうさせてしまうんですよねっ!
まぁあとはついでにキスというシチュエーションが大好きな私があの手この手を考えるからなんでしょう、きっと。
脳内がピンク色ですいませんっ(ジャンピング土下座)
年上の余裕とか、久保ちゃんの前じゃあっというまに砂山の城状態で崩れると思いますが、頑張って下さい。
…書いてる自分が冷静になると恥ずかしいので、確認も早々にUPしちゃいます!(逃)